一般社団法人 日本中小企業経営支援専門家協会(JPBM)では、会員専門家どうしの相互支援体制を構築し、質の高い専門家実務の提供を目指しています。ここでは、会員の疑問に高度な知見を持つ専門家が答えるFAX相談より1例をご紹介いたします。類似の事例に直面したとき、又は予防策としてご参考にしてください。
相談
『正当な手続きを経ていない登記の戻しについて』
医療法人Aは「みなし贈与」が係らない非課税型基金拠出型医療法人への移行を目指している法人です。この医療法人Aの理事長が、理事会等の正式な手続きをふまずに、理事長の親族に資産(建物と土地を)売却し登記をしてしまいました。
この取引は、正式な手続きを経ていないので無効であると思われます。
そのことから登記を一度戻し、再度理事会等の正式な手続きを経て売買・登記をすることは可能でしょうか。
回答
本件の理事長の資産売却行為は、定款等の基づく適正な手続を経ていないとのことであり、また、医療法45条の4第6項の利益相反取引に該当する可能性がある(利益相反取引に該当する場合、理事長は代理権を有さず、都道府県知事が選任する特別代理人が取引を行う必要がある)点で、原則として取引が無効であるため、登記を取り戻すことは可能であると思われます。
しかし法人の内部手続上の瑕疵については、取引の安全保護の観点から、解釈上、善意の相手方に対してその無効を主張できないことが多々あり、本件においても、仮に資産売却の相手方の主観面において、理事会の承認を経ていないことを知らなかった等の事情がある場合には、その点が裁判上の争点となる可能性はあり得ます。
ただ、本件は相手方が理事長の親族である、とのことですので、理事長と通謀している可能性や、親族は理事長のダミーである可能性があり、その場合は、原則通り、取引の無効が認められる余地が高いと思われます。
(移転された登記を取り戻す方法としては、基本的に法務局に対して所有権移転登記抹消登記手続申請を行うことになりますが、この申請は理事長の親族と共同で申請しなければならないため、理事長・親族側がそれを拒否する場合には、親族を被告として、裁判所に対し、当該土地建物の所有権移転登記抹消登記手続請求訴訟を提訴して、判決を取得してそれに基づき登記申請を行う必要があります。)
更に問題なのは、親族名義からさらに善意の第三者に移転登記がなされた場合、医療法人と親族間の取引が無効と判断される場合であっても、当該第三者は保護される可能性があるという点です。そのような取引や登記の移転を防止するためには、早急に、裁判所に処分禁止仮処分の手続を行う必要があります。
なお、本件の「資産の売却」が当該医療法人のいずれの機関の承認事項なのかは、一義的には明確ではありません。医療法人の業務の決定権限は、医療法48条の3の第7項は、「社団たる医療法人の業務は、定款で理事その他の役員に委任したものを除き、すべて社員総会の決議によって行う。」と規定しており、当該医療法人にとって極めて重要な資産売却であるのであれば、その決定権限が、定款等で理事会に権限移譲されているか否かは確認される必要があると思います。
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